グランドセイコーであり続ける、ということ
1960年12月 グランドセイコーは世界最高級の腕時計を作りだしたいという思いが込められて誕生しました。日本を代表する腕時計の名に恥じない高精度を実現するための独自の精度規格をつくり、持てる技術を磨きぬき、1960年代が終わろうとするころには、機械式時計の常識を超える高精度を達成することができたのです。
しかし、グランドセイコーが目指してきたのは、高精度であることだけではありません。見やすいこと、使いやすいこと、長く愛用できることなど、人生をともに過ごす腕時計に必要なことのすべてに追求をつづけ、挑戦と進歩を積み重ねてきました。
グランドセイコーの50年。それは、腕時計の原点と頂点を同時に究めようとしてきた50年でもあります。時は移り、テクノロジーは飛躍的に進化しましたが、グランドセイコーに込められた挑戦する精神は、少しも変わっていません。
これまでの50年も、そして、これからも。
SPRING DRIVE
グランドセイコーは 第三の心臓を手に入れた。
(左)GMT機能が付加された、自動巻きスプリングドライブキャリバー9R66
もっとも進化したぜんまい駆動
機械式時計と同じようにぜんまいのほどける力を動力源とし、水晶振動子によって、精度を制御する。電池も充電池も使わずに、クォーツ式と同等の高精度を達成する。
このアイデアを実現するために、二十年以上の時間が必要だった。
たとえば、極限まで要求された歯車の加工精度をはじめ、エネルギーの伝達効率を徹底的に追求することではじめて、
当初は不可能とされていた技術的なハードルをクリアすることに成功したのだ。
大胆不敵
このスプリングドライブのために開発されたのは「トライシンクロレギュレーター」と名付けられた調速機構。ぜんまいで駆動する機械式時計の精度を上げるために、昔からさまざまな仕組みが考案されてきた。しかし、その系譜の中で、もっとも革新的で大胆な発想から生まれたのが、水晶振動子を使うスプリングドライブのトライシンクロレギュレーターといえるだろう。
72時間
グランドセイコーのために生まれた9R自動巻きスプリングドライブムーブメントは、精度だけでなく、抜群の巻き上げ効率も誇る。世界の名だたる自動巻きの機械式ムーブメントにもひけをとらないどころか、それらを凌ぐ能力で、72時間駆動するためのエネルギーをぜんまいに蓄えることができるのだ。
ムーブメントの開発からそれらを構成するパーツの製造までを自ら手がけるマニュファクチュールでなければ、実現できないことがある。
独創の機構
香箱という名のケースに収められたぜんまいを動力源として、歯車から歯車に力を伝え、針を回転させるという点では、機械式とまったく同じだが、機械式時計には、がんぎ車・アンクル・てんぷという脱進・調速機構がある。
一方スプリングドライブは、7番目の車にあたるローターが1秒間に8回転し、そこで発生するごくわずかな電気エネルギーで、水晶振動子を発振させ、高精度を実現する。
究極の滑らかさ
スプリングドライブの特徴のひとつ、究極のスイープ運針。機械式時計の秒針も一秒を6、8、10などに細かく分割して刻むが、スプリングドライブの秒針の動きの滑らかさはその比ではない。自然の時間を「刻む」のではなく、時間の流れをそのままに表現する。他の機構とは一線を画すスプリングドライブ独特の個性といえる。
MECHANICAL
伝統だけでも、先進技術だけでも、この機械式ムーブメントはつくれない。
1960年12月
初代グランドセイコーが誕生したとき、その精度についてある基準が設定された。
最高の腕時計をつくるための、当時の高精度な高級時計のための国際的な規格と同等の水準を、自らに課したのだった。そして、現在、グランドセイコーの機械式ムーブメントの開発にあたっても「新GS規格」がつくられた。それは初代モデルが挑んだハードルよりも高いハードルだった。
高精度=複雑な機構?
グランドセイコーの9Sメカニカルムーブメント。その開発者がめざしたのは「実用的な機械式時計」 つまり、特別に気を使わなくても高精度を維持できる機械式時計だった。それなら、複雑な機構よりもシンプルな構造のほうが有利である。ただし、そのためにはすべての部品の加工精度を徹底的に高める必要があった。それが実現できたのは、現代の進化した機械工学と名人と呼ばれる職人たちの存在があったからだ。
歯磨きの名人
商品の加工精度について、ひとつ例をあげれば、それは歯車。限られた力を効率よく伝達するために、深さ100分の6ミリの溝を、職人がひとつひとつ丁寧に磨き上げる。気が遠くなるような話だが、これが少しでも狂うと、実用的な高精度は実現できない。
精度を支える「柱」
機械式時計の精度を左右する決定的な部品はてんぷ(調速機構)の中にある「てん輪」。その重量は0.000001g単位で調整されるほどの微細な部品ではあるが、この回転が安定するかどうかが重要だ。問題は熱による膨張で支柱が伸びると「てん輪」が微妙に変形してしまうこと。これを解決するために、普通2本か3本の支柱を4本にした。もちろんこの部品をつくる手間は格段にふえてしまったが。
美しいひげ
てん輪にとりつけられているひげぜんまいの調整。職人が先の尖った手作りのピンセットで、てん輪が正確に働くために必要なひげぜんまいの美しい曲線を整えていく。その力加減はあまりに繊細なため、機械ではできない。ここでもやはり職人の天性の勘と経験がものを言う。
マニュファクチュールSEIKO
時計づくりをムーブメントの設計からおこなう時計ブランドは、世界にもごくわずかしかないが、高品質なぜんまい(ひげぜんまいと動力ぜんまい)を自社グループで研究、開発しているところは、さらに少ない。SEIKOがこの小さなパーツにこだわる理由は、それが高品質な機械式ムーブメントの安定した精度を決定づける大切な要素だから、20世紀の初頭から腕時計をつくり続けてきたマニュファクチュールSEIKO。その歴史と誇りは、このグランドセイコーの9Sメカニカルムーブメントに凝縮されている。
キャリバー9S65
機械式時計の実用性を追求し、更なる進化をとげた新たな機械式ムーブメント、9S651。約72時間、つまり3日間、時を刻む持続時間。脱進機を構成する微細な部品の寸法精度の向上に加え、従来よりも約2倍の耐衝撃性能と、約3倍の耐磁性能をもつ新素材の「ひげぜんまい」を採用することで、より安定した高精度と耐久性を実現した。
常識を捨てる
9Fムーブメントはグランドセイコーのためだけに開発されたクォーツムーブメント。開発者たちがめざしたのは、単に高精度なムーブメントではなかった。腕時計の本質とはなんだろう。グランドセイコーはそれを愛用してくれる人々に何を提供するべきだろう。長い議論の果てに得られた結論は、きわめてあたりまえのことばかりだった。正確であること。時刻を読み取りやすいこと。一生つきあえる時計であること。しかし、このあたりまえのことを徹底的につきつめた結果、9Fムーブメントは、「薄くて軽い」というそれまでのクォーツムーブメントの常識を捨てることになった。
重量オーバー
まずこの9Fムーブメントの開発で、技術者に最初に突きつけられた難題は針だった。初代のグランドセイコーのような太く堂々とした針を回したい。しかしその重量は、それまでのクォーツムーブメントが動かせる限界を超えていた。そして開発されたのが、エネルギーを節約しながら重い針を動かすことができる「ツインパルス制御モーター」。しかし難題はそれだけでは終わらなかった。
瞬きより早く
夜も遅くなると、腕時計のカレンダーの窓の中に数字がずれはじめ、12時を過ぎてやっと正しい日付になる。これではとっさのときに日付がわからない。日付を瞬間的に切り替えるカレンダーは、トルクの強い機械式時計では、いくつか例があるがクォーツ式の時計では前例がなかった。前例がなければつくればいい。いくつか機構が試作され、2000分の1秒で切り替わるカレンダーが、クォーツ式の時計にはじめて搭載された。
震える秒針
歯車は「遊び」がなければ回転できない。しかしその「遊び」が秒針の震えの原因になる。この震えを押さえる機構は従来からあったが、その効果にグランドセイコーの開発者たちは満足しなかった。そして「バックラッシュ・オートアジャスト機構」という新しい方式が開発された。秒針の的確で美しい動きを実現したこの機構には、機械式時計の心臓部を構成するひげぜんまいが使われている。
クォーツは調整できない?
たしかにほとんどのクォーツムーブメントには調整する方法がないが、この9Fムーブメントには「緩急スイッチ」という機構が搭載されている。使いはじめて数年を経て、年差レベルでの進み遅れの傾向がはっきりしたときに、使うためのものだ。ただし、このムーブメントに使われる水晶振動子は特別なテストやエージングを経た「エリート」ばかりなので、この「緩急スイッチ」の出番はあまりない。
540回の検温
クォーツの水晶振動子は温度変化に弱い。1秒間に32,768回という振動数が、温度によって上下してしまうのだ。これをそのままにしておいては年差が確保できない。そのために、9Fムーブメントは時計内部の温度を1日に540回、センサーで測り、水晶振動子の基準からずれた振動数を検知し、その誤差を補正している。
35年目の勲章
セイコークォーツアストロンに、アメリカに本部をもつIEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engneers,Ing、世界最大の電気・電子分野の専門家組織)から、電気・電子技術での歴史的偉業を称えるIEEEマイルストーン賞が贈られたのは2004年。新幹線、富士山頂レーダーなどに続いて日本の4件目の受賞だった。クォーツムーブメントで駆動される時計として世界で初めて(1969年)発売されたクォーツウォッチであるセイコークォーツアストロンは、この9Fの技術的な始祖にあたる。
この小さなムーブメントのなかで、脈々と受け継がれてきたのは、エレクトロニクスの歴史でもあった。






